「私はこんな風に、このアルバムに参加しました」
アコースティック・ブレスに参加された方がどのように参加されたか、自由に語って頂くコーナーです。
第一回は第一作、 Acoustic Breathから参加されている梅里光さんに書いて頂きます。
今回は連載形式となります。
梅里 光
・ギターとの出会い 「当時」という、時間を遡った、限定された時期・地域の事かもしれないが、まるで決められていた出来事の様に、僕達の間で、フォークギターを弾くのが流行った。 中学3年の、特に、男子生徒の間での出来事だった。 (今の時代の若い人達は、フォークギターに興味を示すものなのか? 貯めた小遣いを握り締め、近所の楽器屋で、Morris W-25という、2万5千円のギターを買ったのだが、もしかしたら、楽器屋に足を運んだのは、それが最初だったかもしれない。 その店員がギターを弾いた時、「キュッキュッ」という音がして、どうしてそんな音が出るのか、凄く不思議に思ったことを、今でも覚えている。 こうして僕は、生まれて初めてのギターを手にしたわけだが、胸を張って言えることは、僕は、女の子にモテタイなどという、ありがちな理由でギターに興味を持っていた訳ではなかった。 あの、鉄弦が織り成す、ガラスの破片を落とす様な透明な音に魅せられていたのが事実で、それは、中途半端な気持ちなどでは無かった。 ただ、それが、今でさえも強くなり続けるという、これほど強い想いになるとは、その当時は、想像もしていないことだった。 少し、上手い連中が、見せつける様に、色んな弾き方を教えてくれたりもしたが、僕は、市販されている教則本を買って、ひたすら練習した。 中学3年の文化祭には、ある程度弾ける様になっていて、これまた、生まれて初めて、人前で、ギターを弾いて歌った曲は、「ささやかなこの人生」という曲だった。 こうして、僕の、ギターとの付き合いが始まった。 (2005年9月 連載1回目 了)
・Martin購入 僕は、高校に入って軽音学部に、籍を置くことになる。この頃には、所有するギターも変わって、Morris W-100という、10万円のギターを手にしている。 ギターの良し悪しを定かに出来るほど、知識も腕も無かったが、見た目の憧れで、アルバイトで貯めたお金で買ったことを思い出す。もちろん、それは、それなりに良い音がしたし、自分でも納得していた。 (2005年9月30日 連載2回目 了) ・メーリングリスト 学生時代の、有り余る程の、穏やかな時間は過ぎ去り、僕は社会人になった。新しい生活の中で、音楽と触れ合える時間はあまり持てず、ギターは、僕の心の片隅で、小さくなっていた。 ある夜に、偶然見た音楽番組で、生ギター2本の演奏を聞いた時、種火の様に小さくなっていた、アコースティックギターへの想いが、また、大きな火となって燃え始めたのである。 テレビに映し出されたギターは、YAMAHAのギターであり、日本贔屓の僕は、どうしても、YAMAHAのカスタムギターを手にしたくなってしまった。学生の頃、カタログを眺めては、ため息をついていたギターだった。それからの僕は、想いを矢の様にして、浜松にあった、当時の工場まで出向いたほどだった。 確か94年頃だったと思うが、友人から、インターネットの中に、僕がYAMAHAのギターを手にするきかっけとなったアーティストのファン同士の「メーリングリスト(ML)」なるメールの輪がある事を教えてもらった。 ところが・・・そのメールの中で会話されている言葉が、僕には、全然理解できず、わからないのだ。知らないメーカーの名前、ギターに使用される材の種類など。 M氏からは、YAMAHAにY氏という無類のアコースティックギター好きがいると聞いてはいたのだが、もちろん僕は、面識など無かった。そのY氏がソロアルバムを出したと、MLで知り、僕はすぐにそのCDをY氏から購入した。もうおわかりであろう・・・Y氏とは、安田守彦さんのことだ。 初めて聞く、アコースティックギター・インスツルメンタルの世界は、僕を夢中にさせるのに、それほど時間はかからなかったし、すぐに僕は、自分で表現したいモチーフを、自分の楽曲に乗せ始めた。 そんな中、そのMLの有志を募り、オリジナルCDを製作しようと、安田さんがMLに意見を投じた。もちろん、僕は、自分で楽曲を作り始めてはいたが、自ら演奏し、それをCDにするなど、夢にも考えていなかったし、まるで他人事の様に思っていた。 ある夜、帰宅すると、なんと、まだ会ったこともない安田さんから直筆の手紙が来ていて、それは、僕にCDへの参加を促す内容だった。携帯電話やメールなど、通信・コミュニケーション手段が発達したこの時代に、直筆の手紙が持つ重さは、僕の心を動かした。印象的な一文を、今でも覚えている。 「やるよ・・・ってひと言、言えば良いだけですよ」という文面だったと思う。その一文で、僕の無関心は飛び去り、勇気と元気が、ムクムクと頭を持ち上げたのだ。 自分の楽曲を、自分で演奏し、それを銀板に残し、世界に発信できるなんて、そんなに素晴らしいことは無いじゃないか。 ただ、その時点では、レコーディングの事など、一切、頭から抜けており、冷静になって考えてみると、自分はマイクの1本も持っていなかったのが事実だった。それからの僕は、自宅でのレコーディングと格闘することになる。 (2005年10月13日 連載3回目 了) ・録音について 安田さんから、MLに投じられた言葉は、確か「マスター提出は44.1kHzのDAT」だったと思う。僕は、「DAT」という言葉は知っていたが、「44.1kHz」の持つ意味がわからなかった。 そういうわけで、僕は、まず、録音機材を揃える事に集中した。録音機として、当時の雑誌に色々と広告が出ていた、 さて、自宅で録音する事にしたので、様々な生活音に気を使った。 原因はすぐに判明した。今から思うと、笑い事で済む様な話なのだが、当時の僕に取っては、真剣な問題だった。要は、録音するという事を意識し過ぎるのだろう、息が大きくなったり、演奏のミスを気にするあまり、小さくなった演奏に陥っていたのだ。 もし、これを読まれた方で、初めて録音してみようと思われる方がいるとすれば、少しだけ、アドバスをしておこうと思う。録音した後は、少し時間を置いて、全くの素の気持ちになってから、自分の演奏を客観的に聞いてみると良い。今まで気付かなかったことや、新たな面が見えたりして、結構面白いし、それを、後の演奏で修正すれば良いのだから。 こうして、僕のAcoustic Breathの1stアルバムの録音は、進んで行った。その後、真空管のプリアンプが良いと誰かに聞き、安かったので、ARTのTUBEアンプを買ったり、コンデンサマイクに切り替えたりして、今の録音機材に至っている。 (2006年2月22日 連載4回目 了) ・録音について(続き) 自宅録音に関して、使用した機材などを含めて、ありのままをもう少し、紹介しておこうと思う。 「Acoustic Breath(first)」は、前回書いた通りの機材で録音した。「Roland DR-20」というダイナミック型のマイク2本を、そのまま「Roland VS-880」に突っ込んで、録音した後(確か、44.1kHz-16bitという設定だったと思う)、VS-880からデジタルケーブルで、「SONY A8」というDATデッキを接続し、DATに落として、それをマスターとして提出した。 このVS-880には、マイクを接続するジャックが幾つかあったが、そのジャック毎に、ノイズの乗り方が違ったので、できるだけノイズの少ないと思われるジャックを使用した。そういうチェックにも、ヘッドフォンは欠かせない。ヘッドフォンには、スタジオ定番とされている「SONY MDR-CD9000ST」を使用している。 肝心のマイクのセッティングだが、左右の2本の位置を色々と試して録音し、ベストなセッティングを探すしか方法は無い。 大体の位置関係は、サウンドホールの向こう側20〜30cmで、サウンドホールの中心から左右に、30〜40cm(マイク間の距離)くらいにしたと思う。マイクで、サウンドホールの中心を狙ってしまうと低音が出過ぎたり、色々と不具合が多いので、避けなければならない。右のマイクは、17〜19フレットの指板を狙って、左はサウンドホールとブリッジの間辺りを狙ったと思う。 「Born in The Air」以降は、マイクを3本にして録音している。左右の2本を、「AKG C-391B」というコンデンサマイクにし、ファンタム電源供給を兼ねて、「ART MP」というTUBE式のマイクプリアンプを通して、「KORG D16」というHDRに突っ込んでいる。 その後は、マイクは変更していないが、96kHzで録音するために、HDRを「KORG D16XD」に変更した。この「KORG D16XD」はプリアンプを内蔵しているので、「ART MP」は使用せず、マイクをそのまま、D16XDに突っ込んで録音した。 この時の注意点は、「マスターは、48kHzか、44.1kHzでの提出」という点だ。96kHzで録音したものをそのまま提出してはならない。D16XDの機能で、サンプリング変換(96kHz -> 44.1kHz)を行ってから、CDRを焼くという手順を踏まなければならない。 CDの音質は、44.1kHzなので、最終的には、そのサンプリングになってしまうため、96kHzなどの高いサンプリングで録音しても・・・という意見もあるが、僕には、定かなことは言えないので、色々と試してみるのが良いと思う。 いつも録音している部屋は、6畳の部屋で、自宅の全ての扉を締め、出来るだけ、遮音を心掛けている。また、その部屋には、他のギターを置いてあるのだが、共鳴した音まで録音されてしまうので、録音する時には、ギターは全て、他の部屋に移している。 (2006年5月4日 連載5回目 了) New! ・参加してみて さて、そんなこんなで、記念すべき「Acoustic Breath」が発売になった。 自分の楽曲が、他人の心に同調するなどとは、想像はしてみても、実感は無かったので、初めて自分の楽曲をCDにした僕にとっては、とても嬉しく、何物にも変えがたい、ありがたい感動だった。 安田さんの「やるよ・・・ってひと言、言えば良いだけですよ」との手書きの手紙から飛び込んだ世界だったが、誘っていただいた安田さんには、本当に感謝している。ライブをやるのも良いだろう、このCDに参加するもの良い。そこに、表現したいもの、伝えたいものがあるから、何かを使って表現する。こんなに素晴らしく、人間臭い行為は、ないじゃないかと思う。生きた証に・・・「Acoustic Breath」には、誇りを持っている。 さぁ、これを読まれた、あなたも! (2007年5月8日 連載6回目 了) |
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